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オルタナティヴ・ロック(英語:Alternative Rock)は、ロックのジャンル。

日本では「オルタナティヴ」「オルタナ」と略称されることが多い。
Alternative(オルタナティヴ)とは、
「もう1つの選択、代わりとなる、異質な、型にはまらない」という意味の英語の形容詞。

ジャンル全体の傾向としては、
1980年代の米メジャーシーンの音楽への反発からくる
1970年代以前のロックへの参照・回帰・昇華(音楽的のみならず、思想的にも)を志向しており、
直接的には1980年代のインディー・ロックの流れを組む。

一定の音楽性を示したジャンルではないため、定義については様々な評論が存在する。
また、当時の日本ではグランジやミクスチャー・ロック(こちらは完全な和製英語)といった
直感的に理解しやすいジャンルで盛んにコマーシャルされたため、
それらを包括する意味合いを持つオルタナティヴ・ロック自体の知名度は、海外と比べると低い。

1978年、イギリスでは前年のロンドン・パンク・ムーブメントと入れ替わるように
ポスト・パンク/ニュー・ウェイヴが勃興した。

そのもっとも先鋭的なグループとしてスロッビング・グリッスル、
ディス・ヒート、パブリック・イメージ・リミテッド(PIL)らの名前が挙げられる。

かれらはパンクが開けた風穴をさらに広げようとし、より自由で実験的な音楽を演奏し、
資本的にもメジャーなレコード会社から独立したバンドが多く、
メディアから大ざっぱにオルタナティヴ・ロックと呼ばれた。

同じころ、アメリカ各地の大学で学生が自主運営していた大学ラジオ(カレッジ・ラジオ)は、
イギリスやアメリカのパンク・ロックやポスト・パンク、ニュー・ウェイヴやギターポップ、
ノイズロックなど、アメリカの音楽シーンの主流から外れた音楽を盛んに取り上げた。

彼らのラジオ局は、当時の音楽界の主流であったディスコミュージック、
ポップやヘヴィメタルなどを「商業性を第一とし、産業的・芸能的でアートとしての進歩性に欠け、
聴衆におもねたもの」と呼んで排除し、自らが支持する音楽を
「主流でない音楽、深刻な音楽、自分たちの応援する地元のインディーズバンド」として放送する傾向があった。
全米の大学ラジオごとのチャートをあわせた「カレッジチャート」では、
商業性主体のビルボードチャートとは異なるオルタナティヴ
(代わりの選択肢となりうる・型にはまらない)なバンドが上位に名を連ねていた。

1990年代初頭のアメリカでは、
ライブハウスやカレッジチャートなどを基盤に爆発的に売り上げを伸ばしていたグランジが台頭する。
これらを代表格として、音楽的多様性に富むそれらは主にオルタナティヴ・ロックと呼ばれるようになり、
全米チャート上位を独占していた既存の1980年代風のハードロックや
ヘヴィメタルなどとは違うロックの呼称として一般的に定着した。

オルタナティヴ・ロックとは、そもそも1980年代の主流から外れたロックを指すためのくくりで、
音楽性は雑多で多岐にわたるため、ある一定の音楽を指したジャンルではない。
明確な共通点は、1980年代にメジャーシーンで大きなセールスをあげていなかった音楽、という程度である。

グランジムーブメントの終焉以降

1990年代後半には、発端にして中心であったグランジムーブメントが終焉する。
オルタナティヴ・ロックも、下記の狭義の定義に従えば、爆発的なムーブメントは終焉した。
ただし、同じく下記の広義の定義に従えば、
依然として世界の音楽業界へ影響を与え続けていると言える。

オルタナティヴ・ロックが、ヘヴィメタルやハード・ロックと並立してしまうほどの名実を得てしまった2000年代では、上記のような勃興の際の時代性の意味合いが希薄になっているところも多々あり、
その扱い方は世界的に非常に曖昧なものとなっている。

こと日本においては、そもそも上記のようなムーブメント背景を潜っていないにも関わらず
(下記のようなオルタナティヴ・ロック特有の音楽性との、
幾分かの親和性が見られる邦楽ミュージシャンならばともかく)、
配給会社の戦略によって邦楽ミュージシャンに無闇にオルタナティヴ・ロックの呼称が与えられてしまうことさえある。

定義

オルタナティヴ・ロックの定義は諸説あるが、代表的なものを以下に挙げる。

最広義のオルタナティヴ・ロック

1980年代に隆盛していたロックであるスラッシュメタル、
LAメタル、ヘヴィメタルなどではないジャンルに属し、
かつ1980年代 - 1990年代以降に登場したロックを、全てオルタナティヴ・ロックとする定義。

最も幅が広く、国家の縛りもないため、この定義付けは比較的明瞭で容易である。
しかしながら、こうした場合オルタナティヴ・ロックが勃興してきた際に重視されてきた特有の音楽性・精神性などはあまり重視されず、かつ、ムーブメント背景を全くくぐっていないものも含められてしまう。
また、この定義に従えば1980年代以降のヘヴィメタル以外のジャンルに属している、
ほぼすべてのロックをその範疇に加えてしまうこととなるため、
含められるバンドは膨大な数となり、
ジャンルとしての機能性がほとんど希薄となってしまうのは想像するに容易い。

広義のオルタナティヴ・ロック

勃興の際に中心となった1980年代 - 1990年代のアメリカのバンドを中心に、
音楽性や精神性にそれらとの幾分の親和がみられるバンドであれば、
他国のものや1990年代後半 - 2000年代以降のものであっても含める定義。

最も浸透している定義であり、オルタナティヴ・ロックの考察記事・読本などでは、
これを主眼として「オルタナティヴ・ロックに属するバンド」を選考し、扱われることが多い。
しかしこの定義の場合、音楽やアティチュードの親和性という部分にそもそも多分の主観性を含むため、
決して厳密で明瞭な定義ではあり得ない。

狭義のオルタナティヴ・ロック

オルタナティヴ(異質な)・ロックが主流となってしまい、そ
の時代性が希薄となってしまった1990年代末期以降のバンドを含めず、
史観でもって勃興時期の前後に位置するものだけを取り上げる定義。

この定義は、学術的にロックミュージックの歴史を取り上げる際などに、
その明瞭さを注視されて扱われることが多い。ただしこの定義の場合、
1990年代末期以降に活躍し、音楽性的に既存のジャンルに含める事が難しく、
オルタナティヴ・ロック以外の呼称を与えにくいバンドをオルタナティヴに含めることができず、
齟齬が発生する事が多い。

最狭義のオルタナティヴ・ロック

そもそもの語源に立ち返り、
その時代の主流に対するカウンターミュージックを志向するバンドのみを含める定義。
この場合、様式化されていることがないため、
オルタナティヴ(異質な)・ロックという本来の意味には最も忠実である。

しかし、基本的にその音楽に対する主観に依る定義であるため明瞭でなく、
また(オルタナティヴという本来の語源からすれば当然ではあるが)
利益の最大化を主眼とした資本性を捨てているため、
そもそもシーンの主流となっていったためにオルタナティヴ・ロックというジャンルを必要とし、
定義付けされていった他の定義とは、根本的に違いがある。

パンク・ロック(ハードコア・パンク)、ブリットポップ、ノー・ウェーブ、
インダストリアル、ガレージロック、グランジ、シューゲイザー、ノイズロック、
ミクスチャー・ロック(ラップロック、ラップメタル)、ローファイ、パワーポップ、ポスト・パンク、
ギター・ポップなどこれらのロックジャンルはオルタナティヴ・ロックと混生的な解釈をされる事が多い。

特徴・特筆

オルタナティヴ・ロックは、
そもそもが1980年代の主にアメリカのメジャーシーンの音楽に対して
オルタナティヴ(異質)としてくくられて誕生したジャンルであるため、
額面的にみれば、音楽性は1980年代的なもの(MTV的なもの)と正反対の方向性を持つ。
これらはその多くが、様式化された演奏を逸脱した音楽的な挑戦、
もしくは精神的なメジャーシーンへの対立性を志向している反面、
1980年代のポピュラーミュージック、ロックに比べると聞き手の耳触りのよさや
キャッチーであることを単直に求めないものが多い。

これらのいわゆる「アート性に根ざす分かりにくさ」がオルタナティヴ・ロックに対する一つのタームとなっており、R.E.M.やソニック・ユースといった勃興の際の旗手となったバンド群は、
その人気が1990年代に入ってメジャーシーンへ表出した際、
その1980年代ヘヴィメタルロックとは違った抽象性・
アート性を当時のローリング・ストーンやNMEなど多くのメディアでさかんに議論された。

当時の日本での反応

これらの前衛性・アート性は当時の日本では本国アメリカ以上に理解を得られず、
その定着には時を要した。日本で本格的にオルタナティヴ・ロックの評価が高まり、
きちんと確立されるのはニルヴァーナやレッド・ホット・チリ・ペッパーズらのブレイクにより、
オルタナティヴ・ロックが完全に潮流となってからとなる。

音楽性

サウンド的には、アンダーグラウンド志向に則ってきらびやかなエフェクトは敬遠され、
1970年代以前のロックの影響が濃い、簡素でロー・ファイ的な価値観を重視する。
ドラムサウンドやヴォーカルにキラキラとしたエフェクトをかけるのは好まれず、
ガレージ・ロック/インディー・ロックのような現実感のある自然なサウンドが重要視される。

演奏面では、特にギターのサウンド/奏法には工夫を凝らし、
いわゆる1980年代に定型的とされていたヘヴィメタル的な奏法を否定し、
速弾きソロなどは用いないバンドが多い。ギターの私的な改造を主としたスイッチ奏法などの音作りや
、多くのシューゲイザーバンドやノイズロック・インダストリアルバンドが得意としている
ギターノイズ奏法などは特に著名。

好まれた機材としてはフェンダー社のジャガーやジャズマスター、
ムスタングなどが挙げられる。

歪み用のエフェクターは、きめの細かいヘヴィメタルタイプのディストーションよりも
RATなどの荒いタイプのものが多用される。
また、トゲトゲしいルックスを持った変形ギターなど、
1980年代メインストリーム的なものを好んで使用するバンドは非常に少ない。

歌詞は、政治性・メッセージ性が強く、
機知に恵まれ比喩も巧みな文学性も高いバンドから、
文に全く意味の通らないようなナンセンスで意図的に歌詞カードすら作らないバンドなど、
様々なタイプが存在する。
歌詞に対するスタンスについてもオルタナティヴ・ロック全体に共通する傾向を挙げることは難しいが、
どちらにせよ一般的なヒット曲に有りがちな分かりやすい題材とは一線を画している。
これらは、オルタナティヴ・ロック特有のアート性・抽象性の顕在化に役を買っていると言えるだろう。

ステージ衣装、メイクに関しても、
力のこもった「いかにも」な衣装やメイクは敬遠される傾向がある。
大半は普段着の延長のファッション、
もしくはバンドによっては通常では考えられないほどの奇抜・変態的でアヴァンギャルド的なものが好まれる、
と両極端である。
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