インダストリアル(Industrial)は、電子音楽の一種である。ノイズミュージックと関連性が大きい。
原初のインダストリアル
スロッビング・グリッスルが、1977年に発表した1stアルバムThe Second Annual Reportのジャケットで、「工業生産される大衆音楽」へのアンチテーゼとして“INDUSTRIAL MUSIC FOR INDUSTRIAL PEOPLE”というスローガンを掲げたことがその語源とされている。その後、このフレーズがアメリカに渡り、ミニストリー(Ministry)に代表されるインダストリアルのバンドを誕生させることになった。
呪詛的な声とパフォーマンスを披露したスロッビング・グリッスルなどの表現アプローチを見ると、大衆ロックというより現代音楽寄りのアート性の要素が強く、かつパンク・ロックのように既存の音楽をできる限り踏襲しないというスタイルも兼ね備えている。これはスロッビング・グリッスルの前身がクーム・トランスミッション(Coum Transmission)という前衛アート集団であったことが深く関係している。ミニストリーのアルバムTwitchに収録されているIsle Of Man (Version II)などは、スロッビング・グリッスル直系のインダストリアル本来のサウンドであり、その面影を今に見ることができる。
本来的なインダストリアルの音楽性を持ったバンドとしては、インダストリアルの概念が生まれる前からメタルパーカッションによるパフォーマンスを行っていた先駆者ゼヴ(Z'ev)、メタルパーカッションに加えドリル、チェーンソーなどといった身の回りの道具や廃材を楽器として多用したアインシュテュルツェンデ・ノイバウテン(Einstürzende Neubauten)やテスト・デプト(Test Dept.)、攻撃的な高周波数の音を用いたSPKおよびホワイトハウス(Whitehouse)、工場の機械音を再構成し用いたヴィヴェンザ(Vivenza)、極度に歪めた電子音を駆使したマウリツィオ・ビアンキ(Maurizio Bianchi)、歪めた電子音に加え金属の打撃音を用いたエスプレンドー・ジオメトリコ(Esplendor Geométrico)など主に1980年代に結成、活動したバンド/ミュージシャンがあげられる。これらのバンドは1990年代に入るまでには活動を停止したり、方針転換を余儀なくされたりしたが、ゼヴやホワイト・ハウスはスタイルをほとんど変えることなく現在も活動を続けている。
ミニストリー以降の"インダストリアル・ロック"
アメリカで流行したインダストリアルは、ミニストリーがキリング・ジョーク(Killing Joke)から受けた影響を、さらにメタルよりに解釈したアルバムThe Land Of Rape And Honeyのころに形成された。このアルバムは、サンプリングやドラムの打ち込みを中心とした楽曲に、ヘヴィメタルのギターリフを取り入れたヘヴィメタルあるいはスラッシュメタルといえる。
このスタイルはナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)やフィア・ファクトリー(Fear Factry)、ラムシュタイン(Ramstein)のような後続のバンドを多数生んだ。これらのアメリカ型とも言えるインダストリアルは、ロックやヘヴィメタルの要素を大幅に取り入れ大衆向けに変化したものである。特にフィア・ファクトリー、ラムシュタインはサンプリングやシンセサイザーを使いインスダリストリアル的なサウンドを特徴とするが、基本的な音楽性はヘヴィメタルである。
このことから、アメリカ型のインダストリアルを「インダストリアル・ロック」または「インダストリアル・メタル」と呼び、従来のインダストリアルと区別する事がある。
代表格であったミニストリーやナイン・インチ・ネイルズがデジタルサウンド重視の音楽性から距離を置き始めたことに象徴されるように、バンドの音楽性の変化や、バンドそのものの解散が相次いだため、アメリカ型の典型的なインダストリアルの流れは1990年代後半までに一度衰退している。
しかし1990年代後半になると元ホワイト・ゾンビのボーカリスト、ロブ・ゾンビは自身のバンド、ロブ・ゾンビで人気を獲得し、同じくマリリン・マンソンもインダストリアル的なアプローチを交えつつ、より普遍的なロックとして一般大衆に受け入れられている。
また1990年代中期~2000年代初頭には欧米ではニュー・メタル・ムーブメントが興り、スリップノット(Slipknot)やリンキンパーク(Linkin Park)を始めとする多くの新世代のバンドが現れた。これらのバンドはインダストリアルと呼ばれる事はないが、生演奏中心の楽曲にサンプリング等を使い、アメリカ型インダストリアルの要素をより大衆の身近な物としていった。 この2バンド以外にもミニストリー、あるいはフィア・ファクトリーといったインダストリアル・ロックの影響を多分に感じさせるバンドが多く現れた。 .